a TV Show
インタラクティブアート|2015
“a TV Show”は、顔認識技術を利用したインタラクティブ映像作品である。鑑賞者がモニターを観ると、しばらくして映像が切り替わり臨時ニュースを模した映像が流れ始める。その臨時ニュースの内容は、ある事件に関わっていると見られる人物の顔と特徴を報じるものである。しかしその人物の写真として映し出されるのは、会場内の別の場所で撮影された鑑賞者の写真である。またその人物の性別と年齢も、実際と近いものが字幕とアナウンスによって報じられる、というものである。臨時ニュースという、普段決して自らが晒されることのない場所に、思いがけない形で巻き込まれた際の心の動きを引き起こすことを意図した作品である。また同時に、顔認識技術の発達がもたらすプライバシーなど種々の問題の一端を、鑑賞者のみならず制作者側も垣間見ることになった作品である。
ハッキングの文脈で自作を語る作者に、ハッカーではなくユーザーではないかと、あえて質問してみたところ、「ハッカーはユーザーの中にいると思います」という明確な答えが返ってきた。作者はこの作品でFace API、openFrameworks、rubyという、誰の手にも届く技術の組み合わせで、顔認識技術に内在する負の可能性を自己言及的に表現した。元CIA職員スノーデン事件以後にも、平気にカメラ付きのモニターに向かう私たちだから、無数の機械の眼に露出されている現代人の身体情報に対する戒めは、新しくはないとしても、だからといって無意味なことにはならないのだ。ただ残念なことに、その入り口である体験の設計(design)の部分と、実際の体験よりもやや不自然な演出の記録映像のため、他の評価員からの支持を得られなかった。自分の作品を既存のメディアを用いてどのように提示するか、というメディア・コンシャスなプレゼンテーションの手法もが、このコンテストの評価の軸の一つとなるからだ。それでも、個人が0から技術を発明することが極めて難しくなった時代において、技術の利便性と新規性、または巧みな応用に対して興奮するより、積極的に技術を利用することで伝えられるメッセージ性を重視する作者の一貫した制作態度を、私はこれからも応援つづけたいと思う。