日常的な生活において私たちの知覚のほとんどは視覚情報が占めているが、触感や皮膚感覚など根底的な感覚も日々の行為の痕跡として、無意識に身体に集積されている。集積されたものは私たちの行為や言葉の細部に反映されているが、その感覚が意識されることはあまりない。しかしコンタクト・インプロヴィゼーションやダイアログ・イン・ザ・ダークによるワークショップの取り組みなどから、身体感覚を再認識する重要性は知られている。本作品では日常の行為を起点に無意識に集積された感覚を辿ることで、日常生活というミクロな現実社会における感覚の重要性を問う。また、身体の記憶をトピックに、日常と考えられている状態を少しずらすことで違和感が生まれるが、その違和感にも慣れ、一時的にA-Zの行いが日常になるとき、今自分たちが感じている日常が非日常にすらなりうるのだ。
これは、A-Zまでの26個のインストラクションによる、知覚と身体の実験集だ。どれも家の中や近所の風景の中で行われ、自身の身体と、日常の風景との関わり方を新たに生み出していく。だから時々その日常の風景は、しばしば「風景」であるための意味を引き剥がされて、意味以前の単なる凸凹、地形として立ち現れてくることもある。しかし日付が書かれていて、しかもそれがちょうど夏休みの間で、なんだか夏休みの自由研究風になっているのは意図していた通りか不明だが、別の魅力を生み出してもいる。例えばこのインストラクションが本としてまとめられていたり、同じ内用を別の人が行ってみるなど、展開やまとめ方をもう少し見てみたい。