いってらっしゃい。おかえりなさい。
映像|2015
寺田 光顕
東京藝術大学大学院

ART DIVISION SILVER
本作はワンカットで撮影された3分30秒の映像がループし続ける作品です。一軒家を舞台にそこに住む人物たちが出かけたり帰って来たりし続けます。登場人物が様々な部屋を行き来していく中で、時間や住人、視点、空間が変化していきます。そこにいるはずの住人があたかも幻であるかのように同じ行動を繰り返します。
映像|2015
寺田 光顕
東京藝術大学大学院
ART DIVISION SILVER
ワンカットで撮影&編集された画面はビデオアート的であり、どこか懐かしさを感じされる。しかしこの迷宮に入り込んだ者を逃がさない力を秘めているのは事実だ。
まるで、一軒家の間取りを使ったパズルのような映像作品、あるいは ズビグ・リプチンスキー の「Tango」が一人称視点だったら。こうしてみると一軒家の間取りが、RPGのダンジョンのようにすら見えて来る。画面が切り替わる中で、登場人物が入れ替わってしまう場面では、映像の中で自明で、疑われていなかったリアリティが剥がれていくようだ。人が交換可能で、まるで抜け殻のように感じられる。ループを数回繰り返していくと、映像がそもそも持っている、かつて起きた出来事を記録したものであるという質感、性質からも剥がれ落ち、どこか無時間的な時空に来てしまったかのようだ。そこでは人も、時間も、ただ記録された表象にすぎなくなる。
見ていてぞわぞわする。登場人物たちがみな異様な人たちに見える。関係性がおかしい。この家族というか集団はいったいなんなのか? バグを起こしてしまった現実世界を見ているかのようだ。そんなことはないと理解しつつも、自動生成プログラムで作られた極めて人工的な世界に見える。恐ろしいのは、この「壊れた」世界が、異様なアクチュアリティをもって迫ってくるということである。壊れたルーティーンを、決して疑うことができず、ただ淡々と生きている、そんな人たちの世界が、限りなく現実的なのだ。