島田 千絵美
Carolina von Teutul, Ben-Ryan Hamill, Sophie Spedding, Ed Chappell, Naomi Wong, Jenet Kung, Cecile Arira, Santiago Casarrubios Lopez
キングストン大学
まず初めに、Nutshell Studies of Unexplained Deathのジオラマ写真とアルフォンス・ベルティヨンによる、老婆のまるで眠っているかのような遺体直上から撮影された犯罪現場写真の二つに見られる、この実サイズと縮小サイズ、現実と虚構がいつのまにか交わってしまったような中間的な所に面白さを見出した。それは学部を通し映像というミディアムの可能性を再発見したことから、従来の大衆映画にみられる、見方を画一的に提示するようなストーリーテリングとは異なった取り組みをしたいと思っていた私にとって、魅力的なモチーフであり観察する事の可能性に着目するきっかけとなった。この作品を通して鑑賞者は「誰か」のいた室内へ誘われ、そこに残された物から発せられた情報の断片に耳をそばだて、物語に足を踏み入れる。出口は鑑賞者自身が個人的体験を通してだけ見つけることができるかもしれない。
1枚の犯罪写真から物語と映像を起こすという、作品の作り方にユニークさを感じるだけでなく、そこから生まれた映像はヨーロッパ的なテクスチャーがあり美しい。
リアルな女性とドールハウスの関係を考えているうちに、次々とドールハウスの中が静かに映し出され、音がサスペンスのような何か不安なものを暗示させる。終盤に人形と女性の服の模様に気づいた時に、一連の映像に出て来る現実と虚構がつながりを持つことがわかり、見る人を引き込ませることに、作者の映像表現の技術と魅力を感じた。
何も変哲のないシーン。にもかかわらず、そこには何か不安を感じさせる張りつめた空気が流れる。もしかしたら、視聴者によってはその空気に別の印象を持つかもしれない。いずれにせよ、何かしらを想起させるその空気こそが本作のコンテンツと考える。類似する別モノ(ジオラマ)への移行というブリッジと、映像内に流れるサウンドから、視聴者の連想をリードする。