手でみるシカクは、視覚偏重かつリアリティが重視される現代において、普段主な感覚として使用することのない触覚を用いて、そこにないものを想像させる作品である。ここでいう触覚とは表面を触ったときの皮膚感覚ではなく、物体を持ったときの手や腕に生じる感覚である。 Virtual Reality技術の普及に伴い、触覚はそこに現実感を付加するための位置づけとされており、触覚そのものから何かを想起するという体験をすることは少ない。一方で限られた情報から何かを想像するという行為は「見立て」という文化の中にも存在し、枯山水において人は石や砂を水や山に見立て、落語では扇子が箸に見立てられる。こういった限られた情報から、そこにないものを想像するという行為を触覚において体験することを可能にしたのが本作品である。
本作は体験者が触らないと成り立たない。外観はすべて同じ物体を用いることで対象の視覚情報から得られるイメージを無効化し、キャプションによる少しの情報を参照しながら、触ることでそこに意味を見出すことを意図したインタラクションである。パントマイムではパフォーマーの動作により閲覧者に具体的な質感を想起させるのに対して、本作では触覚的質感と少しの文字情報から体験者に抽象的な対象あるいは体験者固有の対象を想起させる点で想像の余白がある。