私が家族で北海道から東京に引越して以降、20年間メールと手紙で文通していた佐藤先生に電話をかけた。
佐藤先生と直接声で話したのは、北海道にいた頃のみであるため、実に20年ぶりの対話となった。
電話がもたらすリアリティを増幅させるべく、佐藤先生との事前の話し合いは一切せず、ぶっつけ本番で佐藤先生の働く発達支援施設に電話をかけ、録音した。20年という時間が風化させていた佐藤先生の像が、声となって、くっきりと浮かび上がってきた。そしてそれは、20年前の私が記録された写真に、北海道の穏やかな空気を吹き込むかのような会話だった。その空気と佐藤先生の人柄が滲み出ている3分半の対話、そして現在の私が交錯するような映像を目指して編集した。
幼少期に施設でお世話になった佐藤先生に、毎年送ってくれるパウンドケーキのお礼を言うため、緊張気味に電話をかけるハヤテ君。佐藤先生は突然の電話に驚きと興奮を隠せない。画面には当時の幼いハヤテ君の写真が映るため、観客は佐藤先生の感情に寄り添うことができる。「あんなに小さかった子が立派になって」と。
ところが、ハヤテくんの聞き取りづらい小声に、佐藤先生は急速にテンションダウン。さほど話は弾まず、「また夏に梨送りますので…」というハヤテ君の一言は届かないまま電話は切られ、作品もここで終了する。なんという尻すぼみ。これぞ現実。
感動的な涙も衝撃のカミングアウトもないが、確かに成長しこれからも成長し続けるであろうハヤテ君の「いま」を映した、素敵なドキュメンタリー映画だった。
佐藤先生言ってたよ、「たまに電話ください」って。
またかけてさ、ちゃんと伝えようぜ、「梨送りますね」って。