佐藤 優太郎
石原由貴, 小鷹研理, 名古屋市立大学芸術工学研究科小鷹研究室
情報科学芸術大学院大学
本研究室において考案された「蟹の錯覚」は、左右に交差された手の動きが自分のものでないように感じられる、手に対しての自己主体感が失われる身体の錯覚である。本作では、これを応用し、二人で行う対戦型のゲームへと展開した。
向かい合う二人のプレーヤーはゲーム体験時、お互いの手と左右の手を交差させ、蟹のドローイングの描かれた装置を保持し、装置によってそれぞれの手の帰属が視覚的に遮られた状態となる。こうして自他の手の認識が混同した状態で、点滅するランプに正確に反応する、得点先取型のゲームをプレーする。
体験者のリアクションには、「どれが自分の手かわからなくなる」「気持ち悪い」といったものがある。これらの反応は、錯覚がプレーヤー自身の手の自己感に影響及ぼすことを示唆しており、学術的なフェーズにおいて実験を計画する際の重要な材料となる。本作は、このような認知科学の分野における身体の錯覚の議論を、簡単かつ直接的な形で体感できる装置である。
ちょっとした違いなのに人間の感覚がずれていくことを気づかせてくれる興味深い作品。デバイスのデザインも手作り感のある親しみがありつつも、すっきりとしていてセンスよくまとめられているところも良かった。