tricotgraphe
ガジェット|2019
金井 啓太
東京藝術大学大学院

ART DIVISION BRONZE
作者Webサイト https://volkhov.tumblr.com/
tricotgrapheは、編み物(tricot)を動かすことで物理的なアニメーションを再生する、手回し式の映像装置である。1ピクセルのタイムラインを1本の糸に対応させて染色した糸を装置に組み込む。装置の機構は全ての糸を同時に引き合い、スクリーン上に露出した部分の糸の色を変えることで映像を再生する。今回は、日本で初めてテレビ放送実験に成功した時に表示された文字であるカタカナの「イ」を64ピクセルで表示した。
まず、木製で複雑な機構を持つ、大きなアナログの機械のインパクトに目を奪われる。なおかつ、それを使ってデジタル的なアウトプットをさせるというギャップに魅力を感じた。スクリーン表示に使っている糸は、時間軸に乗ったピクセルの集合体として考えるという、多次元の世界を表出させる(しかも木製のアナログな機械を使って)というコンセプトもとても興味深いものであった。
手回し式の映像装置という超アナログな構造物を大胆につくりあげたパワフルなキネティックアート。巨大かつ緻密なメカニズムを持った物体が動き出す様子は、テオヤンセンのビーストも想起させ、観客の目を虜にする力強さとダイナミズム、さらには愛らしさも持ち合わせている。また映像というメディアの特性への考察も深く、これだけの物性で訴えながらも表示されるのは「イ」の一文字という滑稽さもさることながら、本作品をあえて「映像体験」と呼ぶテーマも興味深い。このテーマによって、本作品が一過性のエンタメに留まらず新たな問いを生み出し続けるシリーズにも発展しうることだろう。