Masquerade
インスタレーション|2019
私たちはこれから「新しいなりすまし」を行う必要があるかもしれません。今日のデータ経済においては、私たちの個人情報は常に抜き取られています。例えば検索サービスを使う時、私たちの検索履歴は常に送信されています。その履歴はアルゴリズムによって処理され、データの塊としての私たちの分身が生成されます。この分身は私たちの知らない間に私たちのことを告げ口し、最適化した広告を私たちに送りつけてきます。そんな検索履歴の中に偽の履歴を混ぜることによって分身の解像度を下げられるようなサービスがMasqueradeです。検索に「砂利」によって私たちの本当の個人情報(玉)を外れ値にすることで、分身の生成を制御します。ここで用いられる偽の個人情報はあなたが作成する偽のプロフィールに基づいて自動で出力します。これはデータ経済におけるテック企業による個人の監視に対する「新しいなりすまし」になるかもしれません。
本作品はGAFAを中心にインターネットサービスを通じて企業に個人情報を収集されていく状況に対して、スペキュラティブデザインのアプローチで問題提起を行う野心的な作品である。高い完成度で作り込まれたプロトタイプが、リアリティと共に問いを投げかけてくる。社会的な強い問題意識のもとで展開している作品は、今回の応募全体としても少なく、本作品は異彩を放っていた。作品として見せるための「ツボ」を心得ていて、コンセプトがきちんと言語化されている点も評価できる。グローバルな社会性を含むテーマだけに、今後日本のみならず世界で活躍してくれることを期待すると共に、今回の作品のみならず、作品「群」として石原さんの活動を見ていきたいと思う。