cyack
マルチメディア作品|2019
長嶋 海里
国立音楽大学

ART DIVISION GOLD
作者Webサイト https://kairi-nagashima.net
macOSのスピーチ機能を駆使して音を発する2台のラップトップが、2人の「パフォーマー」として舞台に立つ。それぞれの「パフォーマー」は、受け取った“文字列”を、指定された“レート”、“ピッチ”、“ボリューム”、“言語(話者)”で発音する。スピーチ機能の特性や言語による音響的差異の意図的な増幅により、発音される単語や文章が持つ意味・内容が埋没し、音のテクスチュアや音楽的な要素が浮かび上がってくることで、鑑賞者は言葉と音楽の認識の境目を漂う。
本作品は、MacOSに搭載されているスピーチ機能のパラメータを巧みに制御することで、コンピュータによる発話音声から「音楽」を生成する実験的なパフォーマンス作品。明かりに照らされた2台のモニタに口が並ぶ様や、背後のスクリーンに投影される映像など、視覚的な演出も、世界観の提示と共にこの実験効果を引き立てている。特別なツールに頼らず一般的に導入されている機能を使った上で、人間の知覚をうまく利用しながら豊かな表現へと仕上げている点が素晴らしい。 サイト/コンテクストスペシフィックなパフォーマンスとして、あるいはインスタレーション作品として、さらに発展の可能性がありそうで、今後に強く期待したい。
文字通りのラップトップミュージック。まず、この作品は演出が良い。作品のシステムはすぐに理解できるものの、シンプルながらも目を離せなくなるユーモラスをうまく演出している。かたやコンピュータの自動音声を用いた作品にはエキソニモの『DesktopBAM』をはじめ過去に類似例があり、若干の既視感も漂う。日本の伝統音楽をテーマとするなど、本作のオリジナリティをより音楽的な方向で深めてほしいと思う。