BoilingWave
インタラクティブアート|2019
須川 萌
古川泰地, 鍋島純一
慶應義塾大学大学院
”BoilingWave”では,VRを用いて別世界に没入し,インタラクションが体験者をダンスに導く.”集合的沸騰”とは,祭や儀式の中で生じる人々の熱狂状態のこと.元来ダンスは,”見る者”,”見られる者”の境界はなく,祈りや自然への畏怖を捧げる祭りの中で共に踊られてきた.踊る者たちの間には,言葉を超えた”喜び”で満たされていた.一方で,情報化社会にいる私たちは,映像をはじめものを”見る”という受け身となり,身体そのものを能動的に動かして”喜び”を得る機会は極端に少なくなっている.集合的沸騰体験では,音楽のリズムと他者の行動に反応して身体が思わず動き,他者と共鳴し合う,野生的な身体を取り戻すことを目指した.
”BoilingWave”では,太鼓のリズムと心臓蘇生の視覚・触覚提示によって,フロー状態を目指した.Kinectを用いてプレイヤーのモーションを記録し,モーションをアバターとして次プレイするプレイヤーの世界に出現させた.複数の参加者がプレイを繰り返すことで,一人用のVR作であっても,参加者全員が一つの空間でダンス (=祭)を行い,その集団に溶け込んでいく経験が可能になった.
宗教儀式のトランスとVRを融合させるというテーマは興味深い。果たして集団的熱狂のグルーヴはリアルな身体感覚を抜きにしても発生しうるのか、それは祭りの状況を擬似的に再現するだけでは単なる現実の劣化版にすぎないだろう。ヴァーチャル空間だからこそ生まれる新たな感覚があるのか、それが生まれる理由はなぜかなど、VRを使う意義を深堀りしてほしいと思う。実際のVR体験はできなかったが、作品テーマに掲げたユニークな問いを評価し、今後の発展に期待したい。