happy ice-cream

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パフォーマンス|2019

敷地 理 黒田健太, 小松菜々子, 村川菜乃

東京藝術大学

アート部門 BRONZE

ART DIVISION BRONZE

高校生の時に女子の間で流行っていた遊びがある。偶然相手と言葉が重なった時、先にハッピーアイスクリームといったほうがサーティーワンを奢ってもらえるというものだ。他人と何かが重なった時、私たちは他者との繋がりを感じ、ある種の幸福感を覚える。私たちは自分を客観的に見ることが不可能な中で、物質的に最も近い他者を通じて自分を想像する。お互いの輪郭を撫でること、関係性の中に自分を見出そうとすること、曖昧な自己への確認欲求が振付を支えている。腹部の上のアイスクリームは、埋まることのない欲望のアイコンであり、溶けていき崩壊していくそれらは、不安的な世界のモチーフでもある。小学生のとき9.11をテレビで見て、高校生のときNYでそのメモリアルを見た。その年に東日本大震災が起きた。ループした日常が突然停止し、私はそのとき自分を動かしてきたあらゆるものが曖昧になっていくのを感じた。身体、性別、国籍、親、言語、出生地、逃れられないものが自己を決定しようとする。その中で外側の全く別の不条理な何かがルール付けようと向かってくる。その構造をなぞる様に、客席の呼吸が、振付られた綿密な動きを崩し消費していく。

審査員コメント

  • 椅子の上に反り返った演者の腹部とアイスクリームの接触、呼吸と体温によるそれらの運動という、驚くべき光景からはじまり、ぐいぐいと作品世界に引き込まれる。続くシーンでは、雑多な物が投げ込まれることで舞台美術が形成され、その中で舞う身体は、観者に扮した演者の、やはり「呼吸」に従って運動する。9.11や3.11といったカタストロフィー、曖昧な自己、それを確認するための他者、日常とループ、呼吸といった複数のキーワードが比喩的に繋がり、複層的に折り重なって構成されたパフォーマンスであることが作品に添えられたテキストにより理解できる。が、無意識を伴う人間の身体が、言語による意識(コンセプト)の部分を引き剥がそうとするような感覚が面白く、通底する「不条理」というテーマをよく表しているように思う。咀嚼しきれなさも魅力で、最も印象に残った作品として個人賞とさせていただきました。

    やんツー 美術家