Beyond Path
ミクストメディア|2019
陳 湘馥(Chen, Hsiang-fu)
ベルリン芸術大学(Berlin University of the Art )
現代の科学と技術の発展のもと、地図情報はその殆どが構成され尽くされ、地図上の線は境界線となり、人々や資源を分け、領域さえも取り囲む。更に地図には今なお多くの変化があり、文化の多様性や国家、政治的な関係性を含む問題は、異なる支配勢力の地図上に異なる視点、もしくは正反対の結果を描く。それゆえ、地図作成自体はもはや純粋で中立的な技術ではなく、むしろ権力を誇示し、公的な世界観を示す為の戦略である。
この作品は人々の未来の計画像を景色へと映し出し、何を我々が見たいと欲し、目を向けずに隠したいと願ったかを示す。この装置の描画過程において、光は空白の中を動き、空間を描き分ける。法則を示す為、パスは中央アジアに位置する監獄の衛星イメージを元に生成されている。パスは重なり合い、そして消えていく。
客観的情報とされる「地図」に潜んだ、恣意的にデザインされた権力構造をモチーフにした作品。島国である日本において、地政学や領土問題といったクリティカルなテーマを取り扱う作家は稀。様々な国を跨いで活動する作者のバックボーンや、課題意識が作品へ如実に反映されている。オーストラリア戦略政策研究所によって撮影された新疆ウイグル再教育キャンプの衛星写真を作品のデータベースにする、利用するデータやマテリアルの選択眼も高く、「ミクストメディア」といったジャンルを選択した作者の意図も強く感じる。問題提起やコンセプト、ステートメントは非常に明瞭であり、強いメッセージ性を感じる反面で、作者が提起したい意図のアウトプットとしてより伝わる手法は他にもあるのでは、とも議題に上がった。逆に言うと同様のコンセプトで複数のシリーズ展開ができる可能性も感じ、他手段でアプローチした作品を見てみたい。何度も咀嚼し、考え続けていける強いテーマだと思う。人間の欲望に対する問題提起や批評性、およびそれを電子デバイスに変換する際の確実な実装力、審美眼など、総合的なパラメータの均整のとれたアーティスト。