おく
パフォーマンスやワークショップを含むプロジェクト及びそのためのシステム|2020
Oku Project
板倉 諄哉, 藤中 康輝, 金森 由晃
多摩美術大学大学院、東京藝術大学大学院
本作は“2人以上の人が交互にものを置く”というシンプルなルールでインスタレーションのような空間を作る、パフォーマンス、ワークショップ形式の実践です。作品を作る行為に制限を設けることで、意図の不確かなコミュニケーションゲームとしての側面を持ちます。「もの」の日常的な役割と、プレイヤーの解釈によるその場限りの価値が入り混じり、「もの」に重層的な意味が与えられていきます。この単純なルールは、日常的な「もの」を作品化するシステムだと言えるでしょう。その時現れるのは、既存の作品という概念への問いかけであり、「ものを解釈する方法に正解はない」という状況です。私たちはこうした状況を作ることで、「誰がどのようにものの価値を決めているのか」という社会的な疑問を投げかけます。価値基準の再構築が迫られる状況を作ることで、私たちが抱えるお互いの価値観の違いや理解し合えなさを受け入れるきっかけとなることでしょう。
「二人の作者が交互に物を置いていく」というシンプルなルールだけで、何か意味ありげなインスタレーション作品が出来上がっていくのが、面白く思いました。無作為で選ばれた一般人同士でも、同様に作品として成立しうるのかは疑問がありますが、ライブパフォーマンスと共に、結果的に誰でもがインスタレーション作品を形作れるという可能性が感じられ、一種の発明なのだなと思いました。展示空間にランダムに物を配置するだけで、鑑賞者は物と物の関係を探り、勝手に意味を見出そうとし始め、「作品になっていく」。そういった過程をわかりやすく見させてくれる作品でもあるのだと思います。
非常にシンプルな構成でありながら、直感的にコンセプトが伝わる切れ味の良い作品。「ものを置く」という行為に多義性をもたせることで、どの行為も深い意味があるように見えるし、突き放せばバカバカしくも見える。さらには、この滑稽さ自体が現代美術のありようをアイロニカルに示しているようにも見えてくる。といった具合に、観る者のほうに視点を問いかけ続けることが本作の意義なのかもしれない。
「おく」は、多様な作品が集ったコンテストでも、その独自性が際立っていました。作者たちも言うように、本作はルールやシステムとしてのレイヤに重きが置かれ、パフォーマンスやワークショップの結果としての作品性や作家性(だけ)に閉じない点に軸となる批評性を感じます。スポーツ等のように明確な勝敗が伴うことはないものの、シンプルなルールのみで、参加者および鑑賞者の観察力や想像力が強く試され対話が生まれる興味深い場が生まれます。さらに秀逸なのは実施手順がまとめられたインストラクションで、作者の手を離れても、その場の空間やモノを使って各地で「プロジェクト」を展開するための工夫が綿密になされています。今後の広がりと進化に期待すると共に、メンバーのみなさんの次の活動にも是非注目したいと思います。