Uber Existence
パフォーマンス|2020
花形 槙
多摩美術大学大学院

ART DIVISION BRONZE
作品Webサイトhttps://note.com/hngt_a/n/n46ecf1aa5772
作者Webサイト https://shinhanagata.com/
Uber Existenceとは、そこにいることそのものを提供する、”存在代行”サービスである。利用者は、公式サイト(https://www.uberexistence.com/)にアクセスすると、商品としての身体がずらりと並ぶのを目の当たりにする。そして、行きたい場所、なりたい身体に応じて存在代行者(通称アクター)を選ぶ。そして、アプリを通じてアクターと接続し、指示によってその身体を操作することで、実際にその場に”存在”することができる。キャッチコピーは、「家にいながら、外へ出よう。」
花形は、エンジニア・古田克海の協力のもとこのサービスを実装し、実際にこのサービスが存在する世界に住む1人のアクターとして生活を始めた。彼は、そこで実際に体験される、他者に成り代わられた身体が現代社会で起こす奇妙な出来事を記録しながら、この現代における労働と自由、そして「私」の在り方について思考する。
この作品は、このようにして、架空の設定と現実の実践とが交差し、社会とシームレスに繋がりながら展開されていく、終わりなきメタ・パフォーマンスである。
時事性、社会批評性、ドキュメントの完成度も抜かりない。時代に応答する筋力や反射神経が高く、何より「まだ見たことのない、既視感のないものを生み出したい」という強いモチベーションを感じた。荒削りな面もあるがクリエイターとしての基礎体力が高く、今後有望な作家として今回猛烈にマークした作品だった。
スペキュラティブ・デザインに近い体裁をとっているが、作者本人が自分の描いたディストピアに没入し、ジワジワと現実を侵食していくような虚実の入り交じる薄気味の悪いアプローチは何かまた別の新しい地平を目指しているようにも感じる。作者の持つ身体への偏執狂的な関心が、高度資本主義やグローバリゼーション、感染症といった現代の社会状況に奇妙な生々しさで融合し生み出されたキメラのような怪作。