小人の仕事 | The diligent shadow
インタラクティブアート|2020
《小人の仕事 | The diligent shadow》は、スイッチを介して影の小人と独特なコミュニケーションを交わすインタラクティブアートである。小人がスイッチを戻す理由は定かではないが、鑑賞者はその律儀さを確かめるように(あるいは小人を困らせてやろうといったような気持ちで)ついついこの独特なコミュニケーションを繰り返してしまう。そして、何度スイッチを倒してもまるでそれが自分の使命であるかのように執念深くスイッチを蹴り戻してくる小人に対し、次第に不思議な愛着が生まれ、ついには離れがたい関係になってしまう。
本作の制作テーマは『妙なアクチュアリティ』である。知覚のされ方や質感が現実のものとは大きく乖離している、またはそもそも現実には存在しないような事象に対して、それでもなお感じてしまう妙にありありとした感覚をそう名づけた。メディア表現と、現実空間や鑑賞者の身体感覚などのフィジカルな要素を組み合わせることで、それを表象しようと試みた。
スイッチあるいは影というモチーフ然り、知覚を揺さぶるという作品が持つ効能においても、メディアアートとしては非常にオーソドックスであるが、実際に体験すると「妙なアクチャリティー」という言葉を妙に納得させられる完成度の高さがある。シンプルで、のどごしの良いインタラクティブ作品であるが、鑑賞者の振る舞いによって、小人も振る舞いを変えるなど、システムは思いのほか複雑にできていそうだ。
ユーモアと可愛さ、プログラムの精緻さとアイデアが見事に融和している。とくに映像=小人の影のナチュラルさがすばらしい。技術やコンセプトのクレバーさだけでなく、こういったセンスの良さとこだわりが、作品の品位を高める一番重要な要素となって牽引できているのが解る。
シンプルで面白いアイデアを、よく丁寧に仕上げたと感服します。
システムとして完成度が高く、見え方もシンプルに美しいと思いました。小人が蹴り返した時のスイッチの反応がリアルに再現されていたり、状況に対応した小人の動きがきれいにつながっていたりと、小人が自然にそこに違和感なくいるように思えるので、つい反応を見たくなります。ただ、この鑑賞者の行為は、小人に対してうっすらと罪悪感を抱かせられるものがあるように思います。もしかしたら、作品として、そのあたりに「鑑賞者と小人のコミュニケーション」に関して、もう一歩踏み込める何かがあるような可能性も感じました。
スイッチと影とアニメーションというインタラクティブアートの王道のような構成ながら、緻密な設計でこれまでのどれとも似ていない新しい作品へと昇華させたことに、強い驚きと奥深さを感じました。物理的なスイッチの音・動き・触感が生むインタラクションへの誘導や心地よい中毒性、アニメーションのシルエットと自らの物理的な影の共存による接続性、そしてなによりキャラクターとの対話や物語性と、工夫が細部に渡って散りばめられ、瞬間的な体験に留まらず時間軸を持って多層的に体験が訴えかけてくる点が素晴らしいです。物理とデジタルの狭間で繰り広げられてきたメディアアートの歴史に、作者の「妙なアクチュアリティ」に対する探索がさらなる領域を切り開いていくことをこれから楽しみにしています。