須川 萌
古川 泰地, George Chernyshov, Danny Hynds, Jiawen Han, Marcelo Padovani, Dingding Zheng
慶應義塾大学大学院
舞台パフォーマンスにおける観客の役割は、受動的な観客から、様々な手法を用いてパフォーマンスをインタラクティブにする貢献者へと変化しつつある。コンセプト「Boiling Mind」では、観客の鑑賞への受動性は深い個人的な記憶と向き合うべき重要な姿勢と考え、受動的でありながらもダンサーや作品と共創関係を生み出す舞台演出を提案する。観客の心拍や電極の活動に関連したセンサーデータをストリーミングし、映像や音楽、照明などの演出要素に統合することで、観客の内的な状態を顕在化することを目的としている。そして、観客の内面の状態が演出に影響を与えていく。ダンサーは、観客の内面を感じ取り、一部リアルタイムに振付をしていく。ダンサーと観客がダイレクトに感覚を共有するのではなく、別の形で互いの空気感を捉え、それを相手に返しながら、関係性が生まれる。その循環が劇場という空間で共有されることが大切なコンセプトである。
観客参加型の舞台はすでに色々と存在していると思うが、テクニカルな手法を用いて独自の方向性を模索しているところに新しさやオリジナリティを感じる。観客が取り付ける機材の仕組みが簡素化されると更に身近になりそうで、まだまだ詰める所は色々と見つかるとも思う。今後さらなる改良を期待したい。
踊っている最中のダンサーの生体データを用いた作品は過去にあるが、本作は観客のほうのデータ取得に試みている。参加型、没入型のパフォーミングアーツ作品が増える昨今において、新たなかたちのインタラクティブ性に挑戦している。観客の興奮といった主観的な感覚は果たしてデータ化されうるものなのか、データはダンサーにどのような影響を与えうるのか、さらなる好奇心が湧く作品。