Blink in the Desert
アニメーション|2021
ART DIVISION BRONZE
ART DIVISION GOLD
若き砂漠の隠者は、ある日突然現れた羽虫を殺してしまう。その姿をじっと見つめるゾウ。その日から、少年は羽虫の影に追われていく。
本作のタイトル「Blink in the Desert」とは、「砂漠で一瞬の瞬き (羽ばたき)」をすることを意味する。誰もいない孤独の荒野で芽生える小さな悪意の一瞬。まるで、それは砂漠の隠者のように、祈りを捧げる人の前に突如登場する誘惑の悪魔のようである。
砂漠と言う地は、神もそして人間も存在しない空間、水もなければ草木もない見捨てられた地、つまり生きながらに死を迎える場所として信じられてきた。本作は、そんな砂漠にポツリと立つ白い家、個人的な小さな教会に住む祈る対象を持った人の物語である。
ストップモーションで撮影された本作は、アナログ技術とデジタル技術が横断的に駆使されている。特に、心の葛藤や恐れなど人の複雑な内面を、あえて顔の造形の変わらない人形を使うことによって、顔の傾きや陰影、そして撮影中に人形に蓄積されていく汚れや経年劣化により、深みのある情緒や繊細な感情の変化を表現している。彼が受けた汚れや傷が物語の終盤でどう変化するか、注目していただきたい。
ライティングや画面設計などがよく考慮されていて、クオリティが高い。また人形の表情、特に目の光彩が生々しくまるで生きているようにみえるのが大変すばらしく感じました。内容的には重く沈んだトーンの作品で、ご本人的にもじっくり見せたい気持ちもわかるのですが、テンポが長くシーンが冗長になりがちなのが残念。個人的には、伝えたいカット内の情報を整理してテンポ感をもう少しよく務めると、視聴者のハードルも低くなるのでは?と感じました。
少年がふとした悪意によって犯してしまった罪に苛まれていく物語。周りに人も何もない砂漠の舞台、共に暮らす白い象との関係性、白昼夢のような世界で様々な暗喩に満ちた作品となっています。
目は口ほどに物を言うといいますが、表情や口も全く動かない人形の顔が、目の演技とアニメート、ライティングなどでこれだけの豊かな感情を表現できる事に驚かされました。
既に学生CGコンテストの常連となっている作者ですが、立体アニメーションの技術レベルは作品ごとに上がっていき、既に世界で通用するクオリティの作品に達していると思います。同じく立体アニメーションの女性監督であるスージー・テンプルトンの姿も重なって見えます。今後、国内外で広く活躍する作家となる事を大いに期待しています。
孤独の中で感じる悪意と罪悪感、そして祈りという誰しも身に覚えのある心情を人形のポテンシャルを最大限に引き出して描かれた作品。アニメーションの言語の由来“命を吹きこむこと”を若き隠者の瞳、ライティング、角度と構図によって静かで繊細なコマ撮りアニメーションに落とし込むことに成功している。人形浄瑠璃のような間合いと息遣いを感じるとともに物語が進むにつれて変化する人形の面持ちは日本の伝統工芸を観ているようであり、人形が物ではなく意志を持って成長をしているようにすら見える。作品の持つテーマと表現手法がうまく絡み合い唯一無二の世界を作り上げている。