One

One

インスタレーション|2021

山田 彩七光

東京藝術大学大学院

ある存在が発生して消える過程で、記憶が生まれる。 存在が消えても流れ続ける時間の間を意識する事で、「かつてそこにあったものは何か」について考える。 鑑賞者は靴を脱ぎ、細い道を進む。床に敷かれたクッションの柔らかな感触が身体感覚を整える。光源が回り続ける空間で、粘土の流動が繰り返される。光の移動でループする現象を俯瞰することで、映像と空間が観察者によって融合する。映像は、8Kカムコーダーで撮影した短い映像を連続して再生することでクレイアニメーションになっている。撮影状況と同じ真俯瞰で床に投影することで、高解像度の映像が実在感を持って流動する。 高解像度の入出力が虚構への没入感を深め、粘土の流動は観察者の記憶へと浸透していく。 ここにいる感覚はどこからきているのか。存在を形作る境界はどこに在るのか。 発生と消滅を繰り返す中で、観察者自身の記憶から現実の「今」に立ち返るような感覚装置である。

審査員コメント

  • 4K、8Kと映像媒体の解像度が上がる度に、商品宣伝コピーとしての「超高精細映像」にどれだけの価値があるのか甚だ疑問があった。人の感性をゆるがす「美しい映像」とは解像度が高いことだったのか? 本作はそうしたメディア状況に拮抗して、小さな白い粘土のクレイアニメーションと影だけを用いた非常にシンプルな構成で、解像度がもたらす新たな虚構を映し出すことに成功している。

    塚田 有那 編集者/キュレーター
  • 舞台装置からの視覚的デザインとコンセプトが秀逸で、ついつい足を止めてみてしまう作品になっていると思います。レンブラント的な陰影を、その場のライティングと連動させつつ、映像と印象を根気強く一体化させた内容は、まるでその場にあるかのような臨場感を大いに高めているかと思われます。やや集合恐怖症には厳しい作品かと思いますが、心理的嫌悪感がある内容も含めて、人を惹きつける何かを感じさせる作品です。

    白井 宏旨 演出/ディレクター/株式会社グラフィニカ