The Essential Space

The Essential Space

インスタレーション|2021

菅野 歩美

東京藝術大学大学院

作者である菅野は「オルタナティヴ・フォークロアを作ることで、人々が差異を超え、繋がることができる」という仮説のもと作品制作を行なっている。この作品の映像のモデルとなった「中心新村」は、台湾の原住民の聖地であり、日本統治時代には温泉街として発展し、戦後は中国軍とその家族が二世、三世と暮らし、現在は封鎖されている廃村(眷村)である。横長のスクリーンには架空の村の風景が映し出され、その内部を縦横無尽にカメラが巡る。手前に設置されたテレビに映る「身体の無い猿」は、その土地の物語を絶滅危惧言語で語っている。これらの映像は、菅野が台湾に滞在しながら集めた資料や聞き取りによって得た「首の無い猿」の幽霊話、さらには土地の歴史に、仲間と行なった連想ゲームを付け加え、もう一つの村を想像することで生まれたものだ。遠く離れた、自分にとって特別な思い入れがあるわけではない土地の話が、想像することで、不意に自分にとって繋がりのあるものに感じられる瞬間が訪れる。作品内の架空の村は、現実の村を見つめることで生まれたものであり、架空の村を通り抜けた先で再発見されるのは、私たちが暮らすそれぞれの、”今ここ”である。

審査員コメント

  • 台湾の廃村での体験・客観的な調査や民話のリサーチ、そこから飛躍した妄想のマッシュアップのセンスが独特。実在する土地の二次創作として3DCGで架空の村をつくるアプローチ自体が面白く、不穏なインスタレーションにも惹きつけられた。「オルタナティヴ・フォークロアを作ることで、人々が差異を超えて繋がることができる」という作家のステートメントも説得力があり、閉鎖的な文化を解体して抽象化することで、その土地に対してアウトサイダーの人間であっても奇妙な親密性を感じられる作用を感じた。感染症により人と人、異なる文化間の差別や分断が進む時代において、いま評価すべき意義のある作品。

    市原 えつこ メディアアーティスト/妄想インベンター