平田 純哉
西 大知郎, 上田 悠斗, 安食 星那
早稲田大学
一説では「わざはひ」は、神や妖怪の「しわざ」が「這う」ように世の中に広がっていくことを意味する。社会の混乱の底には物の怪がいるとされ、荒れた川の音や地鳴りの音がその「声」であると伝承されてきたというのだ。
一方、コロナ禍には明確な音がなく、その代わりに溢れているのは連日報道される感染者数等の「数字」のみだった。
この作品では、ピアノの黒鍵に番号を振り、感染者数の変化をメロディに変換し音楽を作り出す。その上に、厚生労働省による新型コロナ対策に関する公式文書や、『方丈記』をはじめとする過去の災いを記したテキストの朗読を重ね合わせ、過去から現在まで、災いに直面した社会の「声」を立ち上がらせることを試みた。
報道が続く度に実感が薄れていく新型コロナ感染者数をメロディに変換し、なおかつ『方丈記』や石牟礼道子『はにかみの国』などの災厄にまつわる文学、そして厚生労働省の発表した感染データをラップで読み上げ、エモーショナルに訴えるライブパフォーマンス的作品。手法はいとうせいこうのダブ・ポエトリーリーディングを彷彿とさせるが、古典文学と現代日本語ラップをミックスするセンス、そして混沌とする社会状況のなかで、ストレートに「声」を発することの可能性を感じさせてくれる。