Sweet Bubble
インターネットアート|2021
私たちの目の前には、目を背けているわけにはいかない様々な問題や課題が山積している。それらは、解決するにはあまりに複雑であったり途方もなく感じられ、常に向き合い続ける事は誰にとっても簡単な事ではないだろう。
そしてこのデジタルメディアの時代において、私たちは膨大な情報の中でエンターテイメントを絶え間なく享受する事で、容易に“見なければいけないもの“から目を逸らさせられてしまう。
“Sweet Bubble”は、鑑賞者がブラウザ上で閲覧するウェブサイト上の[政治に関係するキーワード]を[エンターテインメント(娯楽)に関係するキーワード]に入れ替えて表示するChromeプラグインである。変換後の単語は、食べ物、動物、テレビや映画、性産業、スポーツなどに関する単語からランダムに選ばれる。単語のみを置き換えて表示する事で、違和感によって見えていないものを強調し、その見えない何かを意識せずにはいられなくする試みである。問題が視野に入ることが減ったとしても、そこにある問題は変わらず、そこに在り続ける。
この作品は、Chrome Extentionで閲覧環境に介入し、本来であればユーザーの関心を引き付けなかったかもしれない(もしくは目を背けたくなるような)記事を楽しげ〔Sweet〕に偽装する。ユーザーの違和感を引き出し、フィルターバブルの形成を阻害するジャマーとして機能する本作は、アテンション獲得を目的化したウェブ空間をかき乱すのみならず、ユーザーの欲望をも書き換える可能性を持っている。
違和感を増幅させることで私たちが没入しているものの外側を思考させる、すぐれたメディア批評作品である。エンターティンメントとプロパガンダが、メディアそのものだけでなく、コンテンツとしても人心掌握の手段として表裏一体のものとして発展してきた歴史への言及でもある。Chromeの拡張機能として、既存のプラットフォームをハックするような形でアウトプットしたことも、作品の持っている思想を完成させている。ある言葉が「政治的」であるという判断は共同体の中でのコノテーション(含意)によるものであるので、今後、その意味の揺らぎをどのように作品に取り込んでいけるかなど、興味は尽きない。