不在のための電車

不在のための電車

インストラクション・インスタレーション|2021

Oku Project 板倉 諄哉, 藤中 康輝, 金森 由晃

多摩美術大学大学院, 東京藝術大学大学院

アート部門 BRONZE

ART DIVISION BRONZE

鑑賞者はおもちゃの電車を走らせ、目を閉じてその帰りを待つ。電車は他の作品の間を抜け、展示室を一周して手にぶつかる。モーターの音、レールから伝わる振動、自分の呼吸などの連続する対象への集中は瞑想のような効果を生むかもしれない。 動けない自分の代わりに部屋を一周する電車は自分の分身のようにも思われ、空間をこれまでとは違った方法で感じとることになる。一方で、電車を待つ行為はかえって自分の身体がここにあることを意識させる。そして遠くで鳴る鈴の音は、鑑賞者がその鈴の場所にいないことを暗示する。あるいは、部屋全体を自分の身体のように知覚することになるかもしれない。 自分の存在についての問いが電車の身体的な接触で終わるとき、意識が体に戻る“リフレッシュ”が生じるだろう。

審査員コメント

  • VR/ARからSNSのコミュニケーションに至るまで、視覚情報優位なデジタルメディア社会において、目には見えない「不在」という概念に着目した本作。「不在」とは「ここにあるべきもの、あったはずのもの」という存在感や気配があって初めて生じる感覚である。「いま・ここ」の瞬間にしか立ち上がらない電車のアウラは、目には見えないからこそ、鑑賞者一人ひとりのなかにさまざまなナラティブを想起させる。サウンドアートの巨匠・鈴木昭男は自身の作風を「気配派」と称していたが、多様なアプローチでモノとメディアの関係軸上に「気配」を立ち上がらせるOku Projectもまた、「メディア気配派」という名を(一方的に)送りたいと思う。

    塚田 有那 編集者/キュレーター