VOICE | NOISE
AI、メディア・アート|2021
ノイズキャンセリング・フィルターが耳と環境の間で機能することで、人々の音響環世界は「聴きたい音」と「ノイズ」の2つに分断される。本作では、製品に実装された「人の声」以外の音を「ノイズ」として排除するノイズキャンセリング・フィルターに介入し、排除されるはずのノイズを聴くことができるWebアプリケーションを開発した。ノイズキャンセリングを通して、聴いていない/聴こえないノイズにこそ、豊かな音風景が広がっているのではないだろうか。
本作は製品システムとして実装されているAIベースのノイズキャンセリングのアルゴリズムに潜む偏見を明らかにするものである。AIベースのノイズキャンセリングは今後社会で実用化が進むのは間違いない。そこで、ノイズキャンセリングを敢えて想定とは異なる使い方をすることで、既存のシステムを疑い、ノイズキャンセリング技術の限界や可能性を立ち止まって考えたい。本作での取り組みは、ノイズキャンセリング技術の中で自明であったノイズについて焦点を当てて、改めて考えさせようとするものである。批評的な立場から、既存のシステムを疑い、今後、技術との関わり方について議論を進めていきたい。
AIによるターゲット広告をはじめ、私たちの生活に届く情報は知らぬ間にフィルタリングされて届いている。機械学習のインプットデータの偏りから生まれるマシンバイアスなど、AI技術のブラックボックス化から生じる弊害へ警鐘を鳴らす作品は多々あるが、本作は日常空間の「音」と「ノイズ」に着目している点がユニークだ。無意識のうちに排除される「社会的バグ」の存在を、周辺の音から気づかせてくれる作品になっている。
本作は、機械的なアルゴリズムにより「ノイズ」と判断され削ぎ落とされる音に注目し、その関係を反転させ意味や価値を問う作品です。まず、作者の問題意識が明快で、かつ人工知能や機械学習にまつわる現代的で重要な問題を扱う点を高く評価しました。その上で、スライダーをボイスとノイズの間を行き来するというシンプルなUI操作に落とし込んだことでコンセプトを作品体験へと鮮やかに接続した点が素晴らしい。実装面でも、バックエンドの機械学習などの複雑な構成を感じさせることなくWebベースでどこでも簡単に体験できるよう作り込まれています。今後、体験者が増えてWeb上により多くのボイスやノイズが集まると共に、この作品自体がどのように進化していくのか、次の展開も楽しみにしています。