文字表現の新たな可能性を“ひらく”。立体文字はデザインや出力の手法が特殊であるために一般の人々が制作して楽しむことが難しい点や、その判読性の変化をもたらす要因が専ら鑑賞者の視点変化に限定されている点において、表現の自由度を拡げる余地がある。“ひらきがな”は、平面と立体の2つの形態を行き来する中で判読性が変化する事を大きな特徴とする立体文字およびその制作手法であると同時に、人々にとって立体文字を「つくる」ことが文字を「書く」ことと同等に身近で自由な表現手法となる可能性を拓くための探求である。
平面である文字を立体として表現するだけでなく、それを再度平面に落とし込むことで歪みを生じさせ、見慣れた対象であるはずの文字に既知と未知との間にある違和感を与えることを試みている。また、本手法は一般家庭にある機材だけでも判読性が変わる立体文字を作れること、設計過程において制作者自身も予期しない制作物の変形に出会えること、折る・切る・曲げるといった再造形によって自由に判読性を変化させられること、などといった特徴と応用可能性も有する。
アイデアが非常に面白く、仕上がりが美しい。現状は、文字単体の造形の面白さに終始してるように思うが、これを使って文章や歌詞などを構成し映像作品等に展開できたらスケールアップするのではないだろうか。安易な発想ではあるが、例えばサカナクションの「アルクアラウンド」のMVのように、視点が変わることで文字が次々と浮き出てくるような動画にする等、この作品を使った展開は、まだ多くの可能性が秘められているように思う。