肉体逃走プロジェクト

肉体逃走プロジェクト

パフォーマンス|2022

花形 槙

多摩美術大学大学院

PARTNER AWARD

肉体逃走プロジェクトとは、自分自身の肉体の感覚器官・運動器官を変性させることによって、「正常な人間であること」からの逃走を試みるプロジェクトである。「肉体逃走装置」は、カメラとヘッドマウントディスプレイからなり、肉体のどこかにカメラを装着し、その様子がリアルタイムに映し出されるヘッドマウントディスプレイを被ることで、現代社会で過剰化する器官である「眼」を、肉体の別の場所へと「移植」することができる。これを実践する存在を”スティル・ヒューマン”と呼び、目がついている部位に従って「足目」「腰目」「尻目」と呼称している。例えば、足の先に眼を移植したならば、 「前」は足先の方向へと変わり、それによって脚は首に、尻は肩に、そして両腕が後ろ足に、肉体の構造が変化していく。まるで生まれ直したかのように、新しい身体の使い方を試行錯誤することになる。見慣れたはずの世界が、まるで初めて見たかのように鮮烈に映る。衝動で思考が満たされ、言語的思考は失われていく…。

審査員コメント

  • 『Uber Existence』や『Aseptic Kiss』など、現代社会と身体との関係に着目した作品を発表し、本コンテストでも度々話題をさらっていた作家が、本作ではついに「人間をやめる」と宣言した。まず「正常な人間であることからの脱却」というコンセプトが面白い。コロナ禍以降、常にマスクをつけることを義務付けられた私たちは、公共空間において「正しい身体」であることを強いられてきたとも言えるからだ。さらには毎日スマホを眺めているような視覚優位社会へのカウンターとして、身体上の「目」の位置をずらすことで、新たな変容を試みるという着眼点が興味深い。また本作を個人のパフォーマンスに留めず、さまざまなプレイヤーが参加可能なプロジェクト形式にすることで、今後さらなる発展が期待できるだろう。

    塚田 有那 編集者/キュレーター