Air Talk-Starter
ガジェット|2022
小嶋 凌勢
設楽 明寿, 落合 陽一
筑波大学大学院
空気に囲まれ,私達はこの世界に存在している.当たり前のことだが将来的には「情報が溶け込んだ空気」によって我々はさらにそのことに気づかず支えられているはずだ.ろう・難聴者が抱える最大の問題の一つに話しかけられたことに気づけないことがある.聴覚障害は外見や行動だけでは障害の有無やその程度に気がつかず,話しかけられても気がつかない様からコミュニケーションの機会の損失を大きく受けている.スマートフォン,スマートウォッチにある視覚や振動触覚を用いたアクセシビリティ機能では常にデバイスが視野にある点や身体に接触している点,強い光や固い振動が煩わしさとしてある.Air Talk-Starterは空気砲から射出された空気渦輪を話しかけられた人の頭部に当てることでその方向を示し,コミュニケーションの入り口を作りやすくする.
また日本国内ではろう・難聴者の人口は30~40万人であり狭いターゲットである.しかし実は話しかけ以外にもインターフォンの音,赤ちゃんの泣き声,水の流しっぱなし,目覚ましなどの届いていない情報はまだまだ多く,この空気砲による通知はろう・難聴者のニーズに深く届くものだと信じている.
近年、ハンディキャップを解決するデバイスの開発が目覚ましい。デジタルファブリケーションの進歩により、従来のマス型製品開発ではなく、個々のニーズに適応した開発が可能になったことが背景にあるが、本プロジェクトもまた、ろう者である開発者自身の気づきが発端となっている。そのおかげか、問題解決の手段が「空気で知らせる」というやわらかなコミュニケーションであることに好感を持てる。このやさしい技術は、たとえば長すぎる会議にブレイクを入れたり、言いにくいことをそっと知らせたりするなど、学校、オフィスなどにも応用できるかもしれない。