Invisible view

Invisible view

現代アート|2023

大越 円香 守下 誠

情報科学芸術大学院大学

指紋は唯一性を有する。アセトンにより溶解、剥落した人差し指の指紋の図像からは、大地の表層のようなイメージが立ち現れる。 本作は「オリジナルの印画紙」「大判印刷」「Webページ」の3つの形式の写真で構成される。 三名の人差し指の指先を撮影し、2Lサイズの印画紙に印刷する。それにアセトンを散布するとインクの溶解・剥離が起き、物質性を有する痕跡が写真の表層に残る。さらにその表層を接写レンズで辿るように撮影していき、Photoshop上で部分の画像データを繋ぎ合わせることで、超高解像度の画像データを制作した。それを大判印刷をすると、指先の指紋と混じり合う、肉眼では見えない物質的痕跡が現れる。また、超高解像度の画像データをWebページ上で見られるように、スマートフォン上のwebページでピンチイン、ピンチアウトして『Google Maps』のように、画像に「触れる」Webページを作成した。スマートフォンに触れながら作品を鑑賞することを通して「写真の中に自分がいる」体験の創出を企図した。 印画紙の表層に残った物質的痕跡が、大判印刷、Webページを鑑賞する時の指針として機能し、鑑賞時に3つの形式を結びつける。

審査員コメント

  • 画像に触れることや、肌に触れるこのことを改めて意識させてくれた作品でした。確かに私たちはスマートフォンを手に入れてから、当たり前のように画像に触れピンチアウトによって拡大します。人の肌に触れる時、無意識のうちに私たちの感覚は温かみなどから人そのものの存在を感じているように思うのですが、デバイスで画像に触れる、そしてそれを拡大すると言う操作は、情報を拡大しているとともにその感覚も広げているのではないかと考えさせられました。また写真の存在とリアルな肌の存在、アセトンで変化した肌の模様は作家自身が見せ方として工夫しているGoogle Mapsにおけるどこか知らない土地のようにも見えます。その展示手法も作品を的確に伝える能力があることの裏付けだと思いました。

    滝戸 ドリタ アーティスト/ディレクター/デザイナー
  • ひと目ではアブストラクト絵画のように見えるが、被写体は人間の指先である。撮影した写真を薬品で変化させ再撮影し、これを大判出力した印画紙を実空間で鑑賞する。いっぽうスマートフォン上でも作品画像に「触れながら」拡大・縮小して見ることができる。指先にひろがる畳み込まれた情報の地形図において、指先が自らと「対面」するわけである。イメージは、高さ3メートルの印画紙とスマホの画面というスケール的な差異を通して体験されつつ、わたしたちは解像度をめぐるメディアの地平と招かれる。人差し指は、記号論的には痕跡としての「インデクス」だが、イメージの本質に物質と身体の両面からアプローチする、知性とウィットの効いた魅力的作品である。

    港 千尋 写真家/多摩美術大学情報デザイン学科教授