愛したものの居場所
映像音響インスタレーション|2023
髙橋 宙照
今村 英法, 阿部 玲子, 小勝 礼子
東京大学大学院
ART & NEW MEDIA DIVISION EXCELLENCE AWARD
この作品は、「見えないものに対して想いを馳せること」を促す装置となる映像インスタレーションである。私は生と死をテーマに作品を制作してきたが、コロナ禍だったこのときはその興味が見えるもの/見えないものへと抽象化していた。人間が外部から得る情報のほとんどは眼から得る情報(見えるもの)であると言われているが、だからこそ見えない物事を意識することが重要だと考える。ここでの見えないとは物理的に小さくて見えないもの(原子やウイルス)、概念として存在し可視化できるものではないもの(情報/宗教)、存在を忌避し視界から排斥しているもの(死やマイノリティ)など、複合的な意味を持つ。この作品では私の死への関心を出発点に、そのアイデアをより広い社会的な意味へと拡張させながら、鑑賞者に様々な思考の視点を提供している。
大きなテントを自作し、ドローン・水中カメラ・アニメーション・音楽、など様々なメディアや技術、デバイスを駆使して構成された映像インスタレーション。作者の中に表現したい「何か」が確固としてあって、それをどうやったら他者に届けられるのか、アートにしかできないことを必死に模索・チャレンジしている点を高く評価した。一度に全てが視覚に入らず、自らの意思で画角を選択するように工夫された画面サイズは、作者が意図する「見えないものに想いを馳せる」ことを体現する効果があった。様々な技法を用いているため、物語、構成、構図、アニメーション、映像、ひとつひとつの要素としては発展途上な部分もあるが、これだけの熱量を持って作品制作したことを学生CGコンテストとして応援したい。
生命が存在するかけがえない星に生きることを感じさせる、大型の映像インスタレーションである。「見えないもの」をテーマにした映像は、全天周カメラやドローン、水中カメラなどを駆使した立体感のあるもので、そこに手書きのアニメーションが重ねられて実像のなかに想像上の生命体が現れる。そこに昔話を想わせる語りが流れ、観客は波間をたゆたうような感覚に誘われる。物語のベースになるのは生と死に対する思考であり、死のイメージも現れるが、不思議と全体の印象は明るい。生と死を循環的な構造のなかで描くことで、生の「居場所」を考えさせる。オリジナルな内容と装置を大きなスケールでまとめあげた力量を高く評価したい。