ぬけがらメトリ

ぬけがらメトリ

メディアアート|2023

森田 茉莉 橋田 朋子

早稲田大学大学院

アート&ニューメディア部門 奨励賞

ART & NEW MEDIA DIVISION ENCOURAGEMENT AWARD

「ぬけがらメトリ」は3Dスキャン技術を用いて物体の曖昧な表層を取り出す試みである。この作品では、様々な角度から撮影した写真を統合して3Dデータを生成するフォトグラメトリという3Dスキャン手法を用いている。この手法で3Dスキャンをする際に、物体にポリ袋などの半透明な覆いを被せる。すると出力されるデータは、外側の覆いに中の物体が貼りついてしまったような、現実とは色も形も異なる見た目になる。通常の3Dスキャンではバグや失敗とも考えられるこの現象を新たな表現手法として捉え、物体が中身を失って空っぽになり、表面だけが残されているような様を「ぬけがら」に見立てた。 さらにこのスキャンデータを実体化することで、現実世界にぬけがらのようなオブジェクトを生み出す。作成した実体化オブジェクトは一枚の布から出来ており、データと同様に内部が空洞になっているほか、形や色も元の物体とはズレている。しかしながら元の物体を想起させ、何かがそこに有るようで無いような、曖昧な存在感を持って現れる。 この作品では、一連の手法を用いて身の回りの物をぬけがら化し、現実と非現実の境界を探ることを試みる。

審査員コメント

  • 3DCGのほとんどはメッシュとテクスチャによって表現されていて、レンダリングにおけるニアクリッピングなどで明らかになるように、表面しかなく中身がありません。このことは、3DCG独特の薄っぺらさ、空虚さを生み出しているように思えます。この作品では、物体にヴェールをかけ3Dスキャンすることで、ヴェールの表面に内容物がテクスチャとして定着した、抜け殻のような立体物が作り出されています。ヴェールが生み出す希薄な存在感と3DCGの薄っぺらさという、異なるメディアや支持体に属する類似した特徴が、3Dスキャンとプリント・造形を経由することで交差し、物質感を伴いながらもどこか空虚な、独特の存在感を生み出しています。作品自体は硬化剤で固められた布という極めて物理的な対象ではありますが、3DCGがもつメディアの特性を鮮やかに描き出しているように思われました。

    永田 康祐 アーティスト