heating clouds simulator
ネットアート|2023
ART & NEW MEDIA DIVISION EXCELLENCE AWARD
PARTNER AWARD
近年、サーバーはクラウドコンピューティングの技術によって存在が曖昧になりつつある。本作ではクラウドコンピューティングを仮想化されたサーバー、起動したいサーバーの数だけのハードウェアを用意することなくサーバーを「ソフトウェアとして実行」する技術のこととして扱う。ハイスペックなコンピューターの中に必要最低限のスペックを持った仮想的なコンピューターを大量に立ち上げたり、複数のハードウェアの連携により1台のハードウェアではありえないスペックの仮想的なコンピューターを立ち上げたりできる技術である。ハードウェアとしてのサーバーの存在は曖昧になり、プログラムの実行やデータの保持を行う本体はまるで雲隠れしている。ネットワークの先のコンピューターが応答する時、そのコンピューターのCPUは電気を消費して計算を行い、熱を発する。私は熱の発生がハードウェアとしてのサーバーが存在していることの表れと考え、本作を制作した。
物理的に存在しない仮想的な存在が、現実への強い影響力をもつこと。こうした事例は枚挙にいとまがありませんが、暗号通貨などにおける分散化された演算がもたらす発熱の環境への影響は、その中でも大きな位置を占めるものでしょう。この作品では、ソフトウェア的にシミュレートされたサーバーによってもたらされる熱が、それぞれ19世紀と現代の気象予測で用いられるストームグラスと物理シミュレーションによって、雲=クラウドとして可視化されています。仮想的であるがゆえに目に見えないクラウドサーバーを、クラウドコンピューティングの根幹でもあるシミュレーションを用いて表現するこの作品は、ミクロとマクロ、仮想的なものと現実的なものを結びつけ、地球規模の環境への影響という想像を超えるスケールでの事物の連関への想像力を与えてくれます。