Transformed Skin
インタラクティブコンテンツ|2023
松原 雅敏
脇坂崇平, 南澤孝太
慶應義塾大学大学院
私たちは肌を通じて人や物に触れ、物理世界を知覚している。そこで生じる肌触りや質感は、私が今、確かにこの世界に存在すると認識するための重要な手がかりとなる。しかし、この肌が異なる物や素材に変わってしまった時、我々がこれまで形成してきた物理世界と知覚世界の境界線はどのように変化するのだろうか。
この作品では、自身の肌の質感が風船や葉っぱ、動物の毛皮などの複数の素材に変化してしまったような感覚を体験できる。3つの異なる体験パターンを用意しており、鏡版ではデバイスを用いず、自身の手の質感を現実世界で手軽に変えることができる。ディスプレイ版ではデジタル化された3Dモデルの手に対して、ハンドトラッキングをしながら体験が可能である。現実の身体と、デジタル化した身体の一部が融合したものとなっている。そしてVR版では、複数の素材のアバターを身に纏い、全身で体の質感が変わる感覚を体験することができる。これら3つの体験を通じて、「リアルとデジタル」「自身の体と素材」の間で起こる体の不思議を感じることで、私たちの身体や意識は何に「変身」できるのかという問いを探求する作品である。
空間コンピューティングやメタバースなどの仮想空間の普及していくなか、人間にとってとても重要な触覚という感覚に着目している点が評価できる。触れるという行為は人間に強烈な現実的体験を提供する。これは、これまでメディアテクノロジーの歴史の中でもあまり進歩してこなかった領域のデザインであり、ハプティックデザインとVRの融合とも言える。撫でるなどの触り心地によるエンターティメントの提供や、触り心地のような、あらたな記憶の創出など、未知の価値観を生み出す可能性が感じられる。意欲的な研究あると言える。