ぼくがこわい黒いもの
短編アニメーション|2023
PARTNER AWARD
VIDEO & ANIMATION DIVISION EXCELLENCE AWARD
この作品を作ろうと思ったきっかけは二つあります。僕は海が好きです。ですがそれと同じくらいの海が怖いです。そして海に入った事がありません。特にそこが見えない海に恐怖を感じます。
この話をすると「入ってみなよ」「入ったらたいした事ないよ」と言われます。わかっていてもやっぱり怖い物は怖くて、その怖さは海に入ってしまったら無くなってしまうかもしれない。海に入る前に海の怖さを描く作品を作ろうと思いました。
もう一つは妹の話です。僕には妹がいます。妹が生まれる時の記憶はあまりありませんが、生まれたての妹と僕が初めて会う日、母は愛情が奪われると思った僕が妹を殴ってしまうのではないかと心配だったそうです。しかし実際に妹との初対面の時僕の反応は「かわいい!!」だったそうです。
この二つの話の「怖い」「心配」「意外とたいした事ない」が繋がった気がしたのがこの作品を作ろうと思ったきっかけです。
平面と立体の中間地点、物質というリアルとデフォルメされた造形の中間地点、恐怖と期待の中間地点、闇と光の中間地点、その間を主人公の不安と共に揺らぎながら進む物語。
どこか遠くのような、水中のような大人たちの会話がぼんやりと聞こえる中、新たな命の出生前から生後までのラインだけは、揺らがずに進んでいく。
その新しい命の初登場が黒いものだった瞬間、兄の苦悩の物語で終結するのかと締め付けられる想いを抱いた直後に、晴れていく黒いものに安堵して心を持っていかれた。
表現は、見せることも語ることのどちらも抑制が効いていて、主人公の想いや、その目に見たものを視聴者に委ね想像させてくれる。