“I was a weapon.”
音響インスタレーション|2024
倉持 清香
Kunsthochschule für Medien Köln
本作は、「ロッシェル塩」という結晶の特性を応用した音響作品である。ロッシェル塩はワインに含まれる酒石酸から化合できる結晶で、力を加えると電気を生じ、逆に電気を加えると伸縮する特性(ピエゾ効果)を持っている。この特性が1880年に発見されると、イヤホンやマイク、戦時中には潜水艦のソナーに応用され、ソナー製造のために味を度外視したワインが大量生産されることになった。しかし結晶は脆く、戦後に他の素材が開発されると結晶の存在は忘れ去られ、大量のワインだけが残ったとされている。
このような科学発展に伴う消費と旧技術の忘失の過程は、私の中で現代のAIを巡る情勢と重なり、AIブームの今にこそ忘却された前時代の技術を再構築・再提示することに意味を見出した。そのため本作では、結晶の歴史をもとに詩を執筆し、その朗読を再生するスピーカーをロッシェル塩を用いて制作した。忘却された技術を用いることで、近代社会におけるテクノロジーの裏の目に見えない自然や消費構造への一視点の提示を試みた。
画像:photo by Alexandra Nikitina
戦前には最新技術として多く活用された、ロッシェル塩の結晶でのピエゾ効果を使ったスピーカー作品。ロッシェル塩という聞き慣れない化合物から流れてくるどこか懐かしい音色にノスタルジーを感じる。ただ、それは単なる音色としてのノスタルジーではなく、ワインという日常品から作り出された当時の「最新」と、その後の新しい技術に取って代わられたというエピソード、また、結晶に電圧をかけるという「自然現象」から生み出される音の構造が一望できることで、そのノスタルジーは倍増されている。また、作者もコンセプトとして記述しているが、この当時の「最新」が、その後の最新によって淘汰され、埋没していく現象は、この技術だけに留まらず、昨今の生成AIなどの最新技術を飲み込んだ循環をも想起させ、閲覧者にいろいろな感慨を与える。