MovingAuricle -direct model-

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聴覚体験|2025

佐野 風史

慶應義塾大学

アート&ニューメディア部門 優秀賞

ART & NEW MEDIA DIVISION EXCELLENCE AWARD

もし、人間の耳が他の動物のように自由に動かせたら、世界はどう聴こえるだろうか。本作は、形状記憶合金によって耳介(耳のうち外に出ている部分)の形状を直接変化させる装置です。デジタルエフェクトで音を加工するのとは対照的に、本作は身体そのものに注目し、意識が音を捉える以前の物理的な「聞こえ」そのものを変容させます。 デバイスは、鑑賞者の耳の形を楽曲に合わせてリアルタイムに制御します。耳の形状が変化することにより、普段聴いている音が、まるでフィルターがかかったり、響きが変わったりするように感じられます。これは、コンピュータによる加工とは異なる、身体に根差した音響体験です。この身体変容は、鑑賞者に「別の生き物」になるような感覚をもたらし、意識以前の「物理的な聞こえ」を直接扱うことで、スピーカーや環境から発される音をそのまま直接聴くのではない、新たな音響表現・世界の可能性を示します。

審査員コメント

  • 実際の耳(耳介)をモーターを使って動かし、耳の形を制御することで、野生動物などの耳を動かせる動物がどのようにして、自然界で音を聞き分け、生き延びているかを体験し考えさせられる作品。しくみとしては耳介をモーターで動かしているだけなので、自分で耳たぶを手で動かすことで「聞こえ方が変化する」ということに関しては同じ効果を得ることはできるが、この作品の意味はそういうことではない。野生動物が「無意識」で耳を動かして、聞こえ方を操作して、獲物を得るためもしくは狩られないようにその変化に対応していることを体験できるというところに価値がある。我々人間にも生きていくために「無意識」で動かしている身体の部位がある。その箇所や存在の意味はなんなのだろうかとあらためて考えさせられる作品。

    古堅 真彦 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授