Do not say thanks.

Do not say thanks.

メディアインスタレーション|2025

永田 一樹

慶應義塾大学大学院

アート&ニューメディア部門 優秀賞

ART & NEW MEDIA DIVISION EXCELLENCE AWARD

《Do not say thanks.》は、生成AIの環境負荷とAIに抱く人間らしさを扱うインスタレーションである。クリッカーとキーボードを用い、機械的に「thanks」と送り続け、ChatGPTが応答するたびに一回の応答で消費すると推定される量の水をディスプレイ上に落下させる。サム・アルトマンはChatGPTに対する「ありがとう」などの礼儀正しい言葉が数十億円分の電力消費につながっている、と発言した一方、ネットニュースではAIに恋をした人間が取り上げられたりする。AIの出力する言葉とUIは、それが人間であると錯覚するように振る舞い、私たちを気持ち良くしてくれる。しかしそれはあくまでもデザインされ、設計されたものであり、その情報空間は実際には水とエネルギー、そして郊外をはじめとする様々な場所に建設されるデータセンターの物理的基盤に依存している。本作は、人間とAIのインターフェースのあいだに文字通り「水を差す」ことで背後にある消費を現前させ、私たちが思わず入力する「ありがとう」という言葉から背後にあるインフラと環境、その人間的な振る舞いを問い直す。

審査員コメント

  • AIの日常的な使用が、思いもかけない事態につながっていることをシンプルかつ適確に表現した作品である。キーボードクリッカーから自動的に「thanks」と送られると、ChatGPTがそのたびに「thanks」と返答する。するとディスプレイ上に水が落下する。水の落下という「思いもかけない事態」は、thanksという返答のために、AIがそれ相当のエネルギーを消費していることを表している。直接的には、増加の一途をたどるデータセンターが電気と冷却用の水を大量消費する問題を背景にしているが、本作品の魅力は洗練されたアイロニーにある。水のようにタダだと思っていた情報が、「渇水」という物質的帰結につながる現実。「AIと人間の関係に水を差す」という作者のウィットも素晴らしい。

    港 千尋 写真家/多摩美術大学情報デザイン学科教授