Take Your Time
現代アート|2025
姥 凪沙
東京藝術大学
ART & NEW MEDIA DIVISION EXCELLENCE AWARD
映像は口文字、手話、点字を含めた様々な字幕と泳ぐ映像。水中で息を吐く間だけ作者のメモの言葉と身体障害者3人が話す私生活についてのインタビューの声が聞こえる。普段、聴き逃してきた声から想像してみてほしい。
服薬中のてんかんの薬の殻を毎日保存瓶に満たす行為は、自分の生きた日数分が視覚化され、安心する。
あなたがどんな身体か?自分の身体を忘れないでほしい。私の身体は健常者に同化し目指そうと疲れてしまう。私は身障者の友達の声を頼りに、自分の身体を取り戻す。物語の障害者が成功して終わることは、経験が身体に馴染む瞬間の話。だが多くの障害者の毎日は、挫折や諦め、妥協の途中を生きている。乗り越えなくても、支え助けられ、諦め、休んでもいい。私は物語るのではなく、身体を語りたい。生きることに許可はいらないはずだから、周りの流れに身を委ね溺れないように、進むフォームは自分が決める。
水の中は苦しい。足りない酸素を求めて水面から顔をあげ、息継ぎをする一瞬だけ、肺呼吸をする人間になれる。陸の上で暮らしていると意識することのない「呼吸」に、身体的な特性を持った作者が日々溺れないように、必死にもがいて手に入れる「普通」が重なる。プールで泳ぐ映像に、口文字・手話・点字、息継ぎの瞬間だけ聞こえる声などを組み合わせた構成に、特性の複雑なリアリティと理解しきれない当事者性が混ざりあう。自分と他者、あちらとこちら、普通とハンディキャップ。自分らしく世界を泳ぐ姿を捉えた水中のカメラワークが、解けるようで解けない境界を揺さぶり、想像させる。強度のある作品。